URUSHI OHTAKI 漆の基礎知識

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  • 漆のおはなし

    日本を代表する工芸でありながら、漆については、案外知られていないことが多いのではないでしょうか。漆職人として、30年この生業に携わった経験から、漆についての様々なお話をまとめてみました。全11話構成です。

    第1話〜第3話  第4話〜第6話  第7話〜第9話  第10話〜第11話(最終話)

    第1話 「そもそも漆って何なの?」 ― 漆は木の生命そのもの ―

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    漆を採るために、
    全身傷だらけになった漆の木

    漆掻きの様子

     障子戸を通して入ってくる微かな光。そんなお座敷の暗がりの中に、ほのかに浮かびあがる漆の器は、神秘的と言ってもいいほど、荘厳な美しさを秘めていますね。その独特の深い色艶は、他の素材ではけっして出せないものでしょう。

     この美しさは、ひとえに、そこに塗られた「漆」という天然塗料の特性に因ります。みなさんは、この「漆」について、どんなイメージをお持ちですか?

     「漆」という言葉は、「樹木」「樹液」、そしてそれが塗られた「器物」、いずれにも使いますが、それぞれの一般的なイメージとしては、たぶん次のようなものはないでしょうか。

    1. 漆の木 … 真っ赤な紅葉はとてもきれいだけれど、夏山に入ってその下を通ると、いつもかぶれたっけ。
    2. 樹液 … とろとろとした粘りのある液体で、独特の臭いがあるよね。
    3. 漆器 … 朱や黒の美しい器。蒔絵などの装飾が施され、桐箱入りの高級品なものが多くて、手入れが難しそう。

     もともと「うるし」という音は、「うるわし」「うるおし」「潤(うる)汁」「塗る汁」などから転じたらしく、また「漆」の字の右半分のつくりは、木から垂れている汁を人間が受け止めている形を表したものだそうです。

     はるか数千年の昔、縄文時代の早期から、漆はその優れた性質により、ぼくらの暮らしのなかで永く使われてきました。けれど、その漆がどういうものか、一般には意外とご存じない方が多いようですので、きょうはまずその樹液を生み出す木と、液の採取について、少しお話ししたいと思います。

     漆の木(ウルシノキ)は、ウルシ科の落葉高木で、高さが七、八メートルにもなります。この木は、東アジアと東南アジアにしかありません。水はけが良くて陽がよく当たり、空気が湿潤で、栄養分の豊富な土のところでないと育たないんですね。同じウルシ科の仲間には、ヤマウルシ、ツタウルシ、ハゼ、ヌルデなどがありますが、漆液が採れるのは、この「ウルシノキ」だけです。毎年、四、五月頃に発芽し、六月頃、白っぽい黄色の小さな花を咲かせます。その実からは、和ろうそくの材料になる鑞(ろう)が採れるんですね。

     漆の樹液は、この木の幹を傷つけて採るのですが、一度にたくさんの傷をつけてもダメなんです。六月中旬から十一月頃まで、四、五日ごとに少しずつ長くした傷をつけて、そこからジワーッと浸み出てくる液を少しずつ掻き取り、貯めていきます。なぜ一度に傷をつけてもだめなのかというと、こうした樹液は、いつでも幹の中を流れているわけではなくて、傷をつけられたことによって、それを治すために、木が漆を作るからなんですね。

     ぼくらもケガをすると血が出ますが、その血はやがて固まり、かさぶたになって、やがて傷が治ってしまいます。漆の木も、傷を治すために「漆」という液を体内で作るわけです。だから、その力を弱めないように、木を上手に生かしながら、最初はごく短く、だんだんと長くなるように傷をつけていくんですね。木にとっては、傷を治すためのせっかくの液を奪われ、傷だらけにされるのですから、さぞつらいことでしょう。じつに可哀想なことをするわけですが、ぼくら職人は、まさにこの木の営みによって生かされているのだと思います。

     六月頃に採った漆は、「初物」(はつもの)とか「初辺」(はつへん)と言って、乾燥が早いために中塗りなどに、また七月、八月に採った漆は、「盛物」(さかりもの)とか「盛辺」(さかりへん)」と言い、最も品質が良いので、上塗り、磨きなどに使います。九月以降の物は、「遅物」(おそもの)または「末辺」(すえへん)と言い、乾きが遅くなります。そのあと「裏目掻き」という少し長い傷をつけて漆を採り、そして最後に、幹の周囲をぐるりと一周する「止め掻き」を行うと、木は根から吸い上げた栄養分を枝まで届けることができなくなり、文字通り息の根を止められ、その後、木は根元から伐採されます。

     一年で漆を取り尽くすこの方法は、「殺し掻き」という物騒な名前がついているのですが、その採取量は、一本の木から約二00ミリリットルと言われ、茶碗一杯分くらいしかありません。(何年にもわたって木を生かしながら採る「養生掻き」という方法もありますが、日本ではほとんど行われていません。)漆の木は苗を植えて十二年たって、やっと漆掻きができる太さに成長するのですが、せっかく育った木をまるまる一本使うわけです、漆という材料自体が、いかに貴重かがわかっていただけると思います。ただ、切株から芽が出て、八年くらい経つとまた漆が掻けるようになるので、ぼくらのこの仕事木を育て、木の生命(いのち)を繋ぎながら営んでいくものと言えるのでしょうね。

    第2話 「漆は最強の液体?」 ―不思議に頼もしい漆の性質 ―

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    C241 カレースプーンの使用例

    7000年前の漆塗りのお椀
    (中国河姆渡遺跡出土、東京美術
    「アジアのうるし・日本の漆」より)

     先回は、漆の木と液の採取についてお話ししました。

     漆は、ウルシノキが自分の体につけられた傷を治すためにつくりだす液であること。夏の盛りに採れた漆液が、最も品質が良いこと。一本の木からわずかしか採取できないこと。一年間漆を採取して、秋の終わりには木は伐採されてしまうこと。でも切り株から芽が出て、八年後くらいにまた採取できるようになるため、漆の仕事は、木を育て、生命を繋ぎながら営まれていることなどでしたね。  さて、そうやって採取された「漆」という液体は、「魔法の液」と呼んでもいいくらい、とても優れた性質を持っているのです。きょうはそのことについて、少しお話ししましょう。

     みなさんは「漆器」というと、「傷つきやすく弱いもの」というイメージをお持ちではないでしょうか。それは、ある意味では当たっていますが、ある意味では誤っているのです。

     たしかに塗りあがってそれほど日が経っていない漆器は、表面がやわらかく、乾いた布で拭いただけで細かな傷がついてしまいます。「漆器は乾(から)拭きするのが良い」と思い込んでいる方がけっこうおられるようですが、それは間違いです。いきなり乾拭きすると、表面についたホコリを布で擦ることになり、傷がつきやすいのです。

     けれど、塗ってから一年くらい経った漆器は、表面が硬くなり、それほど神経質にならなくても、普通に使っていれば、滅多なことでは傷がつかなくなります。ぼくらはこうなることを「漆が枯れる」と言っています。

     しかも「漆」という液体は、いったん乾いて固体になると、塩分、アルコール、酸、アルカリなど、どんな溶剤にも溶けるということはなく、もう二度と液体には戻りません。こんな素材はほかにあるでしょうか。

     たとえば、天然の硬い鉱物の中でも、最も硬いと言われるダイヤモンド。このダイヤモンドでさえ、「王水」という濃塩酸と濃硝酸を交ぜたものを使うと溶けてしまいます。ところが、この「王水」に漆のお椀を浸したらどうなるでしょう。実際に試してみた方の報告によると、全く溶けなかったというのです。何と漆は、ある意味、ダイヤモンドよりも硬いと言えるかもしれません。

     またあるとき、漆器を積んだ船が沈没して、大量の漆器が海中に投げ出されたという事故があったそうですが、数ヶ月後に海岸に流れ着いた漆器は、少しも傷んでいなかったそうです。濃い塩分の海中に数ヶ月浸かっていても、漆は変化しないということが証明されたわけですね。これほどまでに、漆は丈夫で、頼りになる存在なのです。

     そして、どんなものにも溶けないということは、それだけ「安全である」ということでもあります。お椀やお皿に塗ってある塗料が、もしも味噌汁の塩分やお酢の酸で溶けたとしたら、塗料が体内に入り、とても危険です。漆は、そういう心配がまったくない優れた塗料なのです。

     もうひとつ、ついでに申し上げると、漆器はとてもよく燃え、その際も有害物質をいっさい出さず、きれいに灰になります。その意味でも、すこぶる「エコ」な素材だということがわかっていただけると思います。

     それでは、漆はいったい、どのくらいの年月、保つものなのでしょうか。その答えは、じつはまだ出ていないのです。

     中国の大河、長江(揚子江)が東シナ海に注ぐ河口の近くに、「河姆渡」(かぼと)という遺跡があります。そこから出土した朱漆塗りのお椀は、約七千年前に作られたといわれていますが、未だに艶を保ったままです。数千年も土の中に埋まっていたにもかかわらず、今も見事な艶があるということは、漆が少なくとも七千年間、変化せずにいたということですね。使い方次第で、漆器は半永久的に使えると言っていいのかもしれません。

     ただひとつ、こんな漆にも弱点があります。それは「紫外線」です。

     直射日光に当てられた漆器がどのようになるか、ご覧になったことがおありでしょうか。表面の艶が消え、全体に白っぽくなり、嘘のようにボロボロと弱くなってしまうのです。「漆器に直射日光は禁物」ということだけは、憶えておいていただければと思います。

     もっとも現在は、漆の精製のしかたがいろいろと開発され、紫外線に強い漆というものも出てきました。現在も行われている日光東照宮の「平成の大修理」にも、おそらくこの漆が使われているのではないかと思います。

     このように漆にも、その使う場面によって、いろいろなものがあるわけですが、同じウルシノキから採った漆が、なぜそのようにさまざまな種類に分かれるのか、漆にはどんな種類があり、どう使い分けるのか、その辺のお話は、また次回にすることにしましょう。

    第3話 「漆ってどんな色?」 ―漆の精製とその種類―

    ※画像をクリックすると拡大します

    漆の精製

    「生漆」(左)と「透漆」(右)

     みなさんは、漆というとどんな色を思い浮かべられますか? お正月のおせちが映える重箱の中の鮮やかな「朱」? 思わず引き込まれそうな夜の闇よりも深い「黒」? それとも豪華絢爛たる蒔絵の「金」でしょうか?

     たしかに漆には、そういう色のイメージが強いと思います。それは朱や黒の漆が、長い歴史の中で伝統的に用いられてきたからであり、また日本では、平安時代以降、漆の代表的な加飾が、漆を塗って金粉を蒔く「蒔絵」だったからでしょう。

     このうち「金」は、金粉や金箔によるものなのでそれは別として、朱や黒の漆は、どうやってつくるのでしょうか。そもそも、先回までお話ししたウルシノキから採取された樹液は、元々はいったいどんな色をしているのでしょう?

     木から採った原液は「荒味うるし」と言い、それをろ過したり遠心分離機にかけたりして、木の皮などのゴミや異物を取り除いたものが、「生漆」(きうるし)と呼ばれるものです。この生漆は、乳白色のとろりとした油のような色をしていて、漆塗りの工程では、下地用、接着用、または仕上げの磨き用などに使います。この白っぽさは、生漆の中に含まれる「水分」から発生する色で、固着力は強いのですが、ここにいきなり「朱」など色の粉を混ぜても、綺麗な色が出ません。

     そこで、中塗りや上塗りに使うためには、この生漆を「精製する」必要があります。精製とは、どんなことをやるのでしょうか。

     それには、「なやし」と「くろめ」と言われる2つの工程があります。

     「なやし」というのは、ゆっくりと生漆を攪拌(かくはん)して、質を均一にすることを言い、「くろめ」とは、適度の温度で暖めながら攪拌し、漆の中に含まれている水分を、時間をかけてゆっくりと蒸発させることです。「くろめる」という動詞としても使いますが、これをすると、漆はきめ細やかになり、透明度を増した飴色に変わります。これを「すぐろめ」と呼び、用途別にいろいろな種類の漆を作るための大元になるのです。

     この漆の精製作業は、今は漆屋さんが機械で行い、用途によって多種類の漆が販売されていますが、昔は塗りの職人が、直接漆掻きから生漆を買い、すべて手でくろめていました。

     よく晴れた真夏の野外で、朝早くから専用の大きな捏ね鉢に大量の生漆をあけ、これも専用の捏ね棒でゆっくりと掻き回していきます。太陽の位置が低いうちは、いわゆる「なやし」の作業となり、陽が昇るにつれて温度が加わり、「くろめ」の工程に移るというわけです。

     こうしておよそ半日以上も練り続けてようやく完了。このきつい作業は、新入りの弟子の仕事だったらしく、そうでなくても真夏の炎天下、肌を露出し、毛穴が開いているなか、漆の匂いを全身に浴びながら行うために、間違いなくかぶれたそうです。新弟子にとっては、漆の洗礼を受けて漆に慣れるための、過酷な「修行」の一つだったのでしょうね。

     さて、こうしてできた「すぐろめ漆」は、いろんな鉱物や油などを入れて、多種類の漆に加工されますが、大きく分けると、朱漆をはじめ様々な顔料を入れて「色漆」(いろうるし)をつくるための「透漆(すきうるし)系」と、鉄分を混ぜて攪拌することによってできる「黒漆系」になります。

     冒頭に、漆の色のイメージとして定着しているのは、「朱」と「黒」と言いましたが、このうち「朱」は、硫化水銀という顔料を入れてつくる「色漆」の一種で、ほかにも二酸化チタンを入れる「白漆」、酸化第二鉄を入れる「弁柄(べんがら)漆」、また硫酸バリウムからなる有機顔料を入れて、黄色や緑、青、紫などさまざまな色の漆を作ることができます。ただ色漆は、永く置くとだんだん乾きが落ち、やがては全く乾かなくなってしまうため、塗り職人が塗る前に自分で調合するか、少量を購入して、短期間に使い切るようにしています。

     一方「黒」は、顔料を入れて黒くするのではなく、すぐろめ漆に鉄分を加えることにより、漆そのものを変化させてつくります。たとえば包丁を研いだときに出る「とぎ汁」や、昔女性の歯を染めるために使った「おはぐろ」などを入れて攪拌するだけで、ふしぎなことに透明な漆は真っ黒に変わるのです。よく美しい黒髪を「カラスの濡れ羽色」などと言いますが、漆の黒が闇を覗くような深みと美しさを持っているのは、顔料を入れて染めたのとは違う、黒漆独自の製法によるものなのでしょう。

     さらに、この透漆や黒漆には、それぞれに油分を加えるものと加えないものがあります。前者は塗ってそのまま仕上げとするものに使い、後者は塗って乾かしてから磨いて仕上げとするものに使います。

     この仕上げ方法の違いによってどんな効果が生まれるのか、なぜ油分を入れたり入れなかったりするのかについては、また回をあらためてお話しすることにしましょう。

    → 第4話〜第6話

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