URUSHI OHTAKI 漆の基礎知識

ウルシオータキ ロゴ
                    

HOME>漆の基礎知識(第4話〜第6話)

-- アイテム別 --

漆器<皿・プレート類>

漆器<鉢・小鉢・菓子器類>

漆器<盆・膳類>

漆器<食卓小物類>

漆器<茶器・香合・花器>

漆器<箱・小箱類>

漆器<額・壁掛け類>

漆器<アクセサリー・その他>

-- 価格別 --

  • 2,000円未満
  • 2,000〜3,000円台
  • 4,000〜5,000円台
  • 6,000〜10,000円未満
  • 10,000〜13,000円台
  • 15,000〜20,000円未満
  • 20,000円台
  • 30,000円台
  • 40,000〜50,000円台
  • 60,000円以上
  • 漆のおはなし

    日本を代表する工芸でありながら、漆については、案外知られていないことが多いのではないでしょうか。漆職人として、30年この生業に携わった経験から、漆についての様々なお話をまとめてみました。全11話構成です。

    第1話〜第3話 <第4話〜第6話> 第7話〜第9話 第10話〜第11話(最終話)

    第4話 「艶の違いがわかりますか?」 ―磨き仕上げと塗り立て仕上げ―

    ※画像をクリックすると
    拡大します
    漆塗りの茶托と小皿

    塗り立て仕上げの作業風景

     先回は、漆の精製と色についてお話ししました。ウルシノキから採取し、不純物を取り除いただけの「生漆」(きうるし)は、精製作業によって水分の含有を少なくし、より透明な「すぐろめ漆」ができること、それを元に、用途の違いによって、いろんな鉱物や油などを入れ、「透漆系」「黒漆系」の様々な種類の漆が生まれること、また「朱漆」をはじめとする「色漆」は、透漆にそれぞれの色の顔料を入れたものですが、「黒漆」はそれとは違い、鉄分を混入して、漆そのものに化学変化を起こさせてつくったものであること、などでしたね。

     それでは、その精製のあと、漆の中に油分を加えたり加えなかったりするのは、どうしてなのでしょうか。それは漆の「艶」と仕上げ方法が関係していますので、きょうはそのことについて少しお話ししましょう。

     漆の美しさは、深みのある色と同時に、自分の顔が映り込むほどの、鏡面のような艶に依るところが大きいのではないでしょうか。元々、漆の樹液そのものに艶があるので、できあがった漆器に艶があるのはあたりまえと思われるかもしれませんが、話はそう簡単ではないのです。

     単に「漆の艶」と言っても、それにはさまざまな種類があります。ほんとうに顔が映り込むほどのシャープな艶もあれば、しっとりと視線を吸い込むようなやわらかな艶もある。また、「拭き漆」で仕上げたケヤキのお盆などのように、顔は映らないけれど、内部からにじみ出たような上品な艶もあります。

     この艶の違いは、使う漆の種類と、仕上げの方法の違いから生まれます。

     まずは、「呂色(ろいろ)磨き仕上げ」というやり方があります。これは上塗りに、油分の混入していない上質な日本産漆を用いて、十分に乾かしたあと、専用の木炭などを用いて表面を研ぎ、平らにします。次に上質な日本産の生漆を薄く引いて固めます。その漆が乾いたあと、鹿の角を焼いた「角粉」(つのこ)などを使いながら、表面の細かな傷や炭跡などを消して整える「胴摺り」(どうずり)を行います。さらに生漆を引いて固め、油と専用の磨き粉で磨く工程を何度か繰り返すと、徐々にシャープな美しい艶が出てくるのです。日本に多くある「蒔絵」の地の部分は、たいていこの「呂色磨き」によって仕上げられています。

     それとは別に、「塗り立て仕上げ」という方法もあります。これは、別名「花塗り」とも言い、呂色磨きとは逆に、いくらか油分を加えた漆を上塗りに使い、乾いた状態で、すでに美しい艶が出るようにするやり方です。磨きなどの仕上げはしません。塗って乾いて終わりですから、塗り終わった時点で、漆の表面が平らになっていなければなりませんし、どんな小さなチリ、埃がついても失敗です。そのため、塗り部屋の掃除や、塗るときの服装、動作にもひじょうに気を使うことはもちろんのこと、その時々の気温や湿度を見て、ちょうど良いタイミングで乾くように、漆を調整しなければなりません。これには、長い経験と高い技術が必要なのです。

     この「塗り立て仕上げ」は、とてもやわらかな艶が特徴です。また使う漆により、艶の出方が異なります。70パーセントくらいの艶、50パーセントくらいの半艶、また艶がほとんどないマットな状態をつくることも可能です。先回お話しした漆の精製の後で、油分を入れたり入れなかったりするというのは、こうした仕上げ方法の違いによって、それぞれに適した様々な漆が必要だからなのです。油分を混入すると、艶は出ますが、乾きが遅くなり、また漆が固く乾かないため、磨きをするには不適切となります。

     このように、大まかにいって、シャープでくっきりとした艶が出したければ「呂色」、やわらかでしっとりした半艶やマットな感じが出したければ「塗り立て」を行うわけですが、それとは別に、「塗り立て」はあまり大きなものには向かないということもあります。大きなものは、どうしても埃がつきやすく、また乾燥ムロの中で一定時間ごとに回転させて均一に乾かすということも困難だからです。

     一方「呂色磨き」は、手間がかかるため、日常で使う器などの塗りには向いていません。したがって、お椀や箸、重箱、棗(なつめ)の内側などは「塗り立て仕上げ」、蒔絵などを施す高価な重箱・棗の外側や茶箪笥、座卓などの家具類などは「呂色磨き仕上げ」が多いと思います。
     ちなみに、茶道でいう「真塗り」は、黒漆塗りの無地のものをいうのですが、もともとは黒漆を塗り立て仕上げしたもののことでした。それがいつの間にか、呂色磨きしたものもそう呼ぶようになったようです。

     さて、先ほど「塗り立て」の説明の中で、漆の乾きを調整することがとても大切だとお話ししましたが、漆はその乾燥のしかたについても、とても変わった面白い性質があります。その辺のことを、また次回にお話ししましょう。

    第5話 「洗濯物と真逆の乾き方とは?」 ― 不思議な漆の乾燥 ―

    ※画像をクリックすると
    拡大します
    塗り部屋の外観
    塗り風呂の内部

     先回は、漆の「艶」についてお話ししました。漆の艶の出し方には二通りあって、ひとつは、油分を加えない上質の透漆(すきうるし)や黒漆(くろうるし)を塗り、十分乾燥させたあと、炭で研ぎ、日本産の生漆を引いて乾かし、磨く作業を何度か繰り返す「呂色(ろいろ)仕上げ」で、これはシャープな深みのある艶が生まれるということ。そしてもうひとつは、油分を少し加えた漆を、ゴミがつかないように塗り、時間をかけてゆっくり乾かす「塗り立て仕上げ」(花塗り)で、これはとろりとしたやわらかい艶が特徴だということでした。

     さて、これまで「漆の乾燥」「漆を乾かす」という言葉を、あたりまえのように使ってきましたが、漆が乾くのは洗濯物が乾くのとは全く違ったメカニズムがあり、乾燥の条件がある意味真逆であることは、みなさんご存じでしょうか。

     洗濯物が良く乾くのは、当然のことながら、からりと晴れて風がある、空気が乾燥している日ですよね。ところが漆は、そういう条件では乾きが悪いのです。漆がよく乾くのは、気温20〜25度、湿度75〜85パーセント、つまり梅雨時のような、かなりじめじめした高湿度においてなのです。これはいったい何故なのでしょうか。

     一般的に「乾く」というのは、そのものの中に含まれている水分が蒸発することですよね。ところが漆の場合は、そうではないということなのです。正確に言うと、漆は「乾く」のではなく、「固まる」という言葉を使った方が適切なのかもしれません。

     ちょっと専門的な話になって恐縮なのですが、漆の主成分は、「ウルシオール」という名の高分子化合物です。そしてそのほか、水分やゴム質などとともに、「ラッカーゼ」という酵素が含まれています。漆が乾くのは、このラッカーゼが働いて、空気中の水蒸気から酸素を取り込み、ウルシオールを固体に変える作用なのです。この酸化作用には、ある程度の温度と湿度が必要で、それが先ほどあげた漆が乾く条件になるというわけです。

     実際どのようにするかというと、電熱マットの上に水で濡らしたスポンジを敷いた「塗り風呂」という室(むろ)に、漆を塗ったものを入れ、中を密閉しておきます。乾きが悪い条件の日には、マットの電熱を入れ、スポンジの中の水分を蒸発させて、内部の湿度を高くするのです。この塗り風呂は、漆塗り職人の仕事部屋には必ず備え付けられていますが、塗るものが小さいものであれば、段ボールや衣装ケースなどで代用することも可能です。

     温度と湿度の関係ですが、大まかに言うと、気温が高い時は、それほど湿度を上げなくてもよく乾きますが、気温が低い冬などは、湿度を高くしないと乾きません。かといって、90パーセント以上に湿度を上げてしまうと、漆器の表面が露結してしまうので注意が必要です。
     漆は、気温が4度以下ではほとんど乾かず、4度から40度くらいまではよく乾きます。ところが面白いことに、40度を過ぎるといったん乾かなくなりますが、80度を過ぎるとまた乾くようになるのです。不思議ですよね。

     この高い温度で乾燥させる方法を「高温乾燥法」とか「焼付け法」と言い、馬具や鎧など金属に漆を塗る場合に使います。茶釜などをつくる際の仕上げにも、さび止めのために漆を塗り、焼き付けています。いったん焼きついた漆は、ひじょうに堅牢な膜を作り、滅多なことでは剥がすことができないほどです。

     さて以上のことから、季節としては、漆が最もよく乾くのは「夏」で、乾きにくいのは「冬」ということになりますが、「梅雨」の時などは逆にあまりに早く乾きすぎて、仕事がしづらいため、漆の乾きを遅くするように調整しなければなりません。

     それはどのようにやるのかというと、漆をコンロにかけて、沸騰するまでぐつぐつ煮てつくった「焼き漆」と呼ばれるものを、何割か混ぜるのです。漆は沸騰させると、中のラッカーゼが死んでしまって全く乾かなくなり、この乾かない漆を混ぜることで、漆の乾きを遅くできるのです。(現在ぼくらは、漆屋さんが特種な方法で精製した「不乾燥」という漆を、焼き漆の代用として使っています。)

     ちなみに漆は、お酒を加えると乾きが早くなります。昔の職人さんは、「漆のご機嫌をとるんだ」と言いながら、口にお酒を含ませ、塗り風呂の中に、ぷうっと霧吹きのように吹いたのだそうです。
     また逆に油分や塩分が混じると、漆は乾きが遅くなります。したがって油分を加えた漆を塗る「塗り立て仕上げ」は、乾きがゆっくりなため、乾くまでの間に表面の漆が流れて刷毛目を消し、なめらかで均一な塗り面をつくることができるのです。

     さて、先ほど「高温乾燥法」に関係して、金属に漆を塗るというお話ししましたが、漆はどんなものにも塗ることができるのでしょうか。次回は、漆を塗る素地についてお話ししたいと思います。

    第6話 「漆の素地は木だけじゃないよ」 ― 漆を塗れるいろいろなもの ―

    ※画像をクリックすると
    拡大します

    自然石に漆を塗った、
    ペーパーウェイト

    陶磁器に漆を塗った、
    陶胎花器「風紋」

    発砲アクリルに漆を塗った
    立体作品「ゆらぎ」

     先回は、漆が乾くときの条件である「気温と湿度」についてお話ししました。そして、金属に漆を塗る場合の、「高温乾燥法」という特殊な乾かし方についても少し触れました。

     みなさんの中には、「漆って、金属にも塗れるのなら、ほかのどんなものにも塗ることができるのだろうか?」という疑問を持った方もおられたかもしれませんね。きょうは、漆を塗る「素地」について少しお話ししましょう。

     言うまでもないことですが、漆は塗料の一種です。塗料という液体であるなら、どんなものにも塗ることができそうな気がしますね。しかし基本的に、塗った漆がきちんと乾いて塗膜を作り、滅多なことでは剥げない、ということがとても大事ですよね。

     そうしたことを考えると、漆と相性の良い、つまり漆が丈夫な塗膜を作ることのできる素地にも、いくつかの条件が必要になります。そのひとつは、誰にでも直感的にわかると思いますが、つるつるしている面より、ざらざらしている面の方が、漆と素地の接する表面積が単位面積あたり広いので、漆が剥げにくい。そして、漆が素地の中に浸透していくものは、もっと剥げにくいということになりますね。

     そういう点からすると、木をはじめ、布、紙、革、石などは、素地の中に漆が浸透する穴がたくさん開いていて、その点、漆と最も相性の良いものと言えるでしょう。

     そのうち「木」は、漆器の素地として最もポピュラーなもので、板物、挽き物、曲げ物があります。「板物」は「指物」(さしもの)とも呼ばれ、板を貼り合わせ、お膳、重箱、机、角盆、硯箱などがつくられます。「挽き物」(ひきもの)は、ろくろで挽く丸物で、お椀類をはじめ、皿、鉢、丸盆などがあります。「曲げ物」は、木目の通った板を薄く割り、やわらかくし曲げて作るもので、曲げわっぱのお弁当などが有名ですね。漆器の素地に使われる木としては、ヒノキ、ケヤキ、杉、朴、カツラ、トチ、ブナ、栗、桜などがあります。

     「布」は、麻布を型にかぶせ、何枚も漆で重ね貼りして器胎とする「乾漆」(かんしつ)に使われます。仏像のほか、皿や鉢、盆など一般の器もこの方法で作りますが、形を自由に作ることができる反面、とても手間がかかるので、一品ものの作品向きですね。

     「紙」にも同じように、和紙を漆で貼り重ねて素地を作る方法があり、これを「一閑張り」(いっかんばり)と言います。

     「革」としては、なめしていない革を用いて器胎を作り、漆を塗った「漆皮」(しっぴ)があります。そのほか有名なものとしては、鹿のなめし革に、漆で細かい点や型文様をつけて財布やバッグなどを作る「印伝」がありますね。

     つるつるしていて漆が浸透しない「金属」は、普通に乾かすと剥げてしまいがちですが、先回お話しした「高温乾燥法」で、いったん漆を表面に焼き付けてしまえば、あとは楽に漆を塗り重ねていくことができます。これを「金胎(きんたい)漆器」といい、鞍などの馬具や鎧はこの方法で塗られています。

     「ガラス」は、サンドブラストなどで表面を荒らせば、漆が定着します。

     「陶磁器」は、釉薬をかけないでおけば、漆を塗ることができ、これを「陶胎(とうたい)漆器」と言います。ぼくも、花器やカップ類などいくつかのアイテムを制作しています。

     「竹」は、輪切りにしたものに塗ることもできますが、籠やざるのように編んだものに漆を塗るやり方もあり、これを「籃胎(らんたい)漆器」と言います。東南アジアなど南方でよく作られ、軽くて、木のように狂うこともなく、じょうぶなのが利点です。

     「合成樹脂」いわゆる「プラスチック」は、いろいろな種類があり、古くは「ベークライト」と呼ばれるフェノール樹脂が使われ、安価な漆器の代表でした。現在は、ウレタンやABS樹脂などがよく使われていますね。しかし、ウレタン樹脂の上に塗った漆は、木に比べて剥げやすく、耐久性や安全の上でも不安があります。そのほかにも、ポリエステルやアクリル、発泡スチロール、FRP(繊維強化プラスチック)などにも漆を塗ることができます。ぼくもオブジェなど造形作品には、簡単に成形できる発泡スチロールや発泡アクリルなどを使っています。また、木粉を合成樹脂で固めたものも、スプーンやフォークなどの素地として使われています。

     このように、漆はほとんどの素材に塗ることができますが、油分や塩分を含むものだけは、漆が乾かないため、塗ることができません。また当然のことながら、脆いものや狂いやすいものは、素地として不適格です。木の場合は、風通しのよい日陰で何年も乾燥させたものが良材ですが、人工的に乾燥装置を使って乾かすことも行われています。

     さて次回は、こうした素地に漆を塗っていく、その工程についてお話ししましょう。

    ← 第1話〜第3話 第7話〜第9話 →
    TOPへ   

    URUSHI OHTAKI(ウルシオータキ)

    〒958-0873 新潟県村上市上片町2-32 tel.0254-52-6988 fax.0254-53-3272
    mail:yutak@lapis.plala.or.jp

    URUSHI OHTAKI